【そいる文庫】「彼岸過迄」夏目漱石(2008センター試験より)

そいる塾長
そいる塾長

どうも、そいる塾長です。

入試問題で出題された作品を読んでみるこの「そいる文庫」今回第3弾もセンター試験第2問から。今回は2008年の問題。あの夏目漱石ですよ。

 

2008年センター試験国語第2問の出典作

はい、御大夏目漱石大先生。

100年前の作品ですので当然文体も高校生には読みづらい。

なんせ連載が始まったのは1912年1月1日。ちなみにこの日は孫文が中華民国の成立を宣言した年です。もはや歴史の教科書の世界。

センターで出題された部分を読むには問題はありませんが、さすがの私だって本編は何度も注釈のお世話になって読むくらいです。

出題部分のテーマも「男の嫉妬」という共感しづらいものであるため女子高生からは「知るか!」の声多数(笑)

文体とテーマから「小説は得意」と天狗になっていると、こういうのが出題されると奈落の底に突き落とされるのではないでしょうか。必ずセンターまでにしっかり解いて間違えた場合は分析しておく問題かなと。

とはいっても全体の平均点は120点とのことなのでそこまで言うほどのことはない。
(第1問評論が史上稀に見る易しい評論文だったことが理由でしょうが。)

第2問の比喩表現第6問の表現技法などセンター小説の定番問題をの取り組み方を身に着けていれば問題なくクリアできるでしょう。この辺しっかり勉強しておいてほしいですね。感覚で第2問を解くのは怖い。

またこの問題のように途中から始まる回想シーンで時間軸がややこしくなるのも小説問題の定番ですので、是非一度解いておいてくださいね。確実にそこを突いてくる問題が出題されます。これ苦手な人が多いこと多いこと^^;

センター2008国語の問題はこちら

なお、こちらの作品は青空文庫でも読めます。私はまだデジタルで読むのは無理ですが笑

青空文庫 Aozora Bunko

 

読書感想文

さて本編ですが、短編を集めて一つの長編を構成するという手法が用いられており、視点が途中で入れ替わります。

センター試験の出典部分である須永の話になってからが本番という感じですが、最後の「結末」と題された章で全てがしっかりまとまってくる締め方はさすがの一言。

天才とはかくなるものかと思い知らされました。

ここで鳥肌がたったのはわたしだけ?もちろん良い意味での鳥肌です。

なんかここだけ漱石先生がごっつ真面目な顔して書いているような気がしてしまうんですよね。それまではふざけているという意味ではないですが(笑)

この部分は何度も読み返してしまいました。一文字もムダがなくこれ以上洗練すること能わぬ感ね。なんか「怒涛」という言葉がしっくりくるかなと。

ですので頑張ってここまで読んでくださいね。途中脱落しそうになると思うので(笑)

漱石自らこの作品を探偵小説と位置づけているようですが、これは彼が人間観察によって「人間とは何か」を追求した作品に他なりません。

つまり探偵の役目を負った敬太郎の視点で須永という超内向的な近代知識人の典型のような男の人生を深く深く掘り下げていくわけであります。

須永が語りだす際には…

須永の話は敬太郎の予期したよりも遥かに長かった。ー

と書かれており、連載作品である以上後から付け足す事はできないので、ここからが本番だと言わんばかりに須永を掘り下げる気満々でいた漱石のニヤニヤ顔が想起されます笑

人間の異常なる機関(からくり)が暗い闇夜に運転する有り様を、驚嘆の念を以て眺めていたい

これは漱石の本音なのでしょう。どんだけ人間観察好きやねんと突っ込みたくなりますね。

しかし敬太郎にしても須永にしても、これが100年前の若者だといわれると少しほっとする。

前半頻繁に描写される明治の町並みとはうってかわって、結局人間の中身はその100年の間そんなに変わっていないのだと思い知らされます。

何に対しても本気になれず、知識階級でありながら就職もせず親のスネをかじりながら、日々面白いことはないかと探している頭の中はお花畑の敬太郎。

超内向的で自己分析しまくったあげくどんどん卑屈になり、終いには好きでもない(と本人が言う)千代子が他のイケメンとくっつきそうになることに嫉妬し、最後にはその千代子にそんな自分を完全否定され傷つくTHE草食系男子の須永。

こんな大学生今の世にもいっぱいいるような気がします。

私も学生時代はコンパの時にイケメンがいるとよく須永のようになってました笑(コンパとは)

それにしても、ここまでがっつりと心理描写された作品はなかなかない。もう須永のお尻の穴まで見せられたかのようです笑

ちょっと悪趣味かなと思うくらいですが、漱石の後期三部作はやはりちょっと重いのですね。

まあ、私はこういう苦味のある作品の方が好きなので良いのですが。

今回は苦味と言っても眉間に皺をよせるようなものではありません。かといって読後の爽快感はあまりないかな笑

とりあえず、ひさびさのTHE文学作品。

読むのはしんどいですが(特にこの作品は前半かなりきつい…。)やっぱりすごいなと思わされます。実際内容もかなり面白い。須永の話まで辿り着ければですが笑

あとさっきも言った「結末」ね。ここを読むためのながーい前振りだと思うもよし。(これは共感してもらえないかな笑)

中高生のみなさんは文学少年でもなければ手を出すのがためらわれる近代文学。教科書ではちょいちょいお世話になりますが授業がつまらんとその時点で嫌になりますからね(;’∀’)

もちろん大学入試でよく出題されるから文体や時代、思想に慣れておくことも大切ですが、そもそも100年間読まれ続けている作品はやっぱりすごいですよ。

あまり難しく構えずに一度図書館で借りてみてはいかがでしょうか?その際この作品はおすすめしません。多分前半で脱落します(;’∀’)漱石初心者は坊ちゃんあたりからで良いかと。

せっかくだしちょっと文学史のプリントでもまとめようかな。読みたい本ばかり増えていて読む時間は減り続けているこの時期が辛い。

レコードも本も映画も漫画もクラシックを掘り出すとキリがない。

ですがやっぱり良いものはよいですよ。

 

今日はこのへんで。

 

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