どうも、そいる塾長です。
N先生の自作プリント
私が前職の塾へ着任したときからの付き合いのN先生(仮名)。当時は京都大学の工学部に在籍。現在はエリート街道まっしぐら。某有名企業で研究開発を行っております。大学~大学院の6年間で一番の思い出が塾だと言ってくれるくらいに頑張ってくれたアイドル講師でした。
さてその先生、勤務時間外に自作プリントをよく作っていました。もちろんそんなことを強制したこともありませんし本人は趣味だと言っていました。大学の授業中にノートPCを開いて作っていたこともあるそうです。
そんなN先生が中学受験をする小学生のO君(仮名)を担当していたときのこと。当時その子はまだ勉強がかなり苦手。特殊な事情ももありテキストで勉強してもなかなかポイントが見えず、宿題に取り組むのもままならない状態。
そこでN先生はそのテキストの中でも基本的な内容だけをピックアップしてまとめたインプット用のプリントを作成。テキストの問題を自分で演習する際に何をすべきかが明確になるよう工夫されたプリントでした。
それを生徒に手渡した翌週…事件が。
その子が授業に来ない…。
普段遅刻なんてしない子。ましてや無断欠席などするはずありません。おや、珍しく遅刻かと塾の入り口でN先生と私がどうするか相談していたところ…5分くらいしてO君のお母さんと、お母さんに手を引かれたO君の姿が。
お母さんは教室に入るなり開口一番「N先生本当に申し訳ありません!!」と涙を流しながらおっしゃるではないですか。背後でO君も号泣だし…。私とN先生は茫然 (゚Д゚;)
なんでも、O君が塾に行く直前に宿題をちゃんとやっていないことが判明したそうなんですが、そのときなんとO君はN先生が作った理科のプリントを使うこともなく部屋の片隅にぽいっと放ったらかしにしていたらしいのです。
それを見たお母さんが怒り心頭でお説教していたために遅刻したと。そしてお母さんとしてはこのことは親として直絶先生に謝罪しなければならないと感じO君をつれて塾へ来てくださったそうです。
お母さんがN先生に伝えたかった言葉
当時の塾は個別指導塾。まだまだ私が着任したばかり(当時は某大手のFC教室)で生徒数なんて現在の半分くらいやったかな。中学受験する子もほとんどいない。ましてや理科を受講する小学生もいない。それをお母さんは知っていた。
そしてN先生が大学生であることも。
そんな大学生のアルバイト講師がO君のためだけに何時間かかったかわからないような手の込んだプリントを作ってくれた。どれだけN先生がO君のことを考えてくれているか…。
成績があがろうが、中学受験で志望校に合格しようが、そんなこともわからない子のままだったらもうやらなくていい!
(いや…お母さんこんな髪の毛逆立ってないですが素材がなくて笑)
このお母さんはすごくお子さん思いで、塾にも協力的で理想的な保護者さん。面談も毎回3時間くらいは毎回やってました。
実はこのプリント。その面談でお母さんと相談してO君の問題に対して私たちがどうやって指導していくかということを決めていて、もちろんその話をN先生とも共有したうえで、N先生が自主的に作成したものだったのです。
O君の特別な問題に対し有効な手立てとなるプリント。お母さんはそのプリントを見てすぐにそれが分かったそうです。まぁ見たらすぐわかると思います。それほどO君の特徴に特化して作られたプリントでしたから。
N先生はそのあと泣きじゃくりながら授業を受けるO君に対し…
あ、そんなすごいプリントちゃうし俺のプリントは気にせんでええから宿題は計画的にこれからやろうな。よし、今日から毎週宿題計画一緒に作ろう!な?な?もう泣くなって~(*_*;
こんな感じでしたかね。あまりプリントに対しN先生自身は特別な感情があるわけではなく、逆に自分の作ったプリントのせいで叱られたO君に申し訳なさそうでした(笑)
この後O君はぐんぐん成績を伸ばします。特待生をとった中学では学年トップクラスにまで。O君が泣いたのはこのときと私に「おんどりゃぁぁぁあ!!」としばかれたときくらいですかね(笑)この辺から勉強に対する姿勢が明らかに変わりました。
塾講師を楽しむこと
こういう先生って塾で教えることを楽しんでいるんですよね。
学生講師はまだまだ若く人間としても未熟だし、経験が浅く講師としても未熟。私がこれまで面接してきた全員がこのN先生みたいな人であるわけじゃない。とんでもないのもいましたよそりゃ( ;∀;)
(ま、大手の社員さんがなんぼのものですか?と自分が学生だったころはずっと言ってましたが笑)
かくいうこのN先生も塾講師を始めたころは【授業がお通夜】という二つ名を持っていたくらい。ところがそこから成長した。最後はそんな自分の大人しいキャラを武器にまでしてましたね。
「おんどりゃぁぁぁあ」と生徒を叱れない性格のN先生はある日高校生があまりになめた態度で勉強していたときはぼそっとこう言ってました。
あの~、俺さ怒るのが苦手やからもしかしたら伝わってないかもしれんのやけど、今塾講師史上まあまあ最強クラスで怒っていることを伝えとくね(半笑い)
その高校生。それ以降絶対にN先生の前で舐めた態度をとらないと心に誓ったそうです(本人談)
N先生の根っこにあるのは生徒をできるようするということにプライドを持っていたということと、目の前に現れる様々な問題について考えることを楽しめる性格だったからではないかと。
だから塾で授業しているとき以外も生徒の子と考えているし、自分の授業のことを考えている。
学生講師にそこまでしろとは言えません。なんなら今時こんなこと、たとえ相手が正社員であってもくちにしようものならブラック塾認定を受けてしまいそう。
やりたくないならやらなければいい。ただN先生はそれが楽しいからやってただけ。だからこそ生徒や自分の母親と大して年の変わらないような保護者さんの心まで動かしたわけです。
重ねて言いますが別にそんなことしなくてもいいです。必要ありません。そんなことしなくても成績は上げられるし、そもそも学生講師の皆さんはたかがバイトなんだから。将来エリート街道まっしぐらなんだしわざわざ偉そうに無能な塾長から顎で使われる必要なんてないし、もっと割のいいバイトも今ならたくさんありますよ。
ただN先生は楽しいからやっただけ。楽しめるって才能ですよね。強いですよ。どんな仕事でも楽しんでいる人は。楽しんでいない人はこういう人にはなかなか勝てない。
生徒に寄り添うってどういうことなのかなとおもったとき、こんな先生の顔が浮かぶんです。もしも自分の子どもを塾に通わせるならやはりこんな先生がいいなと。
自作プリントを学生講師が作るべき3つの理由
思い出話はこの辺にしておいて最後にちゃんとした自作プリントを作るメリットについて書いておきますね。
とくにこの世にごまんといる学生講師さんに一度作ってみてほしいという思いを込めて書きますのでベテラン講師の皆さんは気にしないでくださいね。となるとなんだか個別指導塾を想定した話になってしましまいますがお許しを。
①自作プリントは教務力強化につながる
道具の特性を理解していない職人などいないわけで、講師の道具である教材を研究するのは当たりまえですね。
自作プリントが教材のコピペみたいなのだと意味ないですが(意外とこの自己満足系が多いのはまさか中学時代のノート提出させられてたことが原因なのではなどと疑ってみたり…)、普段自分が授業で使っている教材をもとに作るのはありです。
そこで普段感じている不満を解消するようなプリントを作ればよいですね。例えば英語の例文がいまいちだと思うなら違うものに変えればよいし、指導する順番が気に入らなければ変えればよい。
自分の授業にピタッと来る教材をまずは作成するようにしてみてはいかがでしょう?
自作プリント制作は私のような中年のおっさんにとっても未だ大きな役割を果たしております。このブログに関してもそうですが、頭にあることをアウトプットすることはとても難しい。
だからN先生のように京大生だからといって良い先生とは限らない。経験上下手な人が多い印象すらあります。ただ私は勉強ができない方が教えるのが上手いという言説には首肯できかねます。この話は今回控えますが…そういう意味ではなく自分の思考する内容を相手に伝わる形にいかに変質させずに変形させアウトプットできるかという意味で下手ということ。
もちろんそれは授業の経験を積めば上達するわけですが何分学生講師にその時間はない。経験を積むまで生徒を実験台にするのも問題です^^;
だからこそ自作プリントです。模擬授業を録音したり色んな方法はありますが、自分の頭の中をアウトプットし、それを客観的に分析できる素晴らしいツールです。
これをどう伝えたらいいんやろ?こうやってパソコンの前で悩む時間、文字だけで相手に伝えきる必要性。ただし一定量内でおさめないといけないため取捨選択を迫られるわけで。これって授業でめっちゃ大事やと思いますよ。
そして何より自作プリントの楽しいところは対象生徒の反応を予測することです。対象生徒が変われば自作プリントはがらりと変わる。これこそ授業で経験することを濃縮したものという感覚があります。
あと授業用に作っておくと、限られた時間内で出来ないことも「読んでおいて」が可能(笑)。生徒に「それ習ってへん」防止にもなります。生徒にとっても「授業は先生、復習はテキスト」だったのが宿題時にテキストではなく先生のプリントに戻れるのは大きいかなと。
ま、学生講師の皆さんはそんなに頑張っても将来塾の先生なんてしないし、と思うかもしれませんが自作プリントも作れん人間が将来どんな企画書作る気やねんと。将来相手は中学生じゃなくて百戦錬磨の怖いおっさん相手やったりするわけで。
ま、自分の頭の中アウトプットする練習は大学の外でもやっておいて損はしないんじゃないでしょうか?意外と子どもたちってなかなか手ごわい取引相手かもしれませんよ。
②ニッチな需要に答えるのが自作プリント
最大多数の最大幸福を目指す塾教材よりも完全に特定の層に絞った自作プリントのほうが個別な対応は可能ですね。つまりテキストが対応できないニッチなニーズに対応可能なのが自作プリントの良さ。
自己満足で需要無視したプリントを作っても意味ないですからね。あくまで必要とされるものを作成すべきであるのは間違いないですね。
例えば復習範囲から指導しなければならない子。テキストレベルを超えたものを要求される子。自作プリントなら対応可能です。もちろん講師ならではのこだわりもしっかり反映できます。
英語で言えば関係代名詞のwhomを教える?教えない問題。テキストによっては発展学習として取り扱っていますが教科書準拠の教材では皆無。しかしこれは教えた方が良いと思うならオリジナルの関係代名詞解説プリントを作ればよい。
授業が一気に捗りますよ。
教材研究にはもちろん定期テストや入試問題の研究も含まれます。定期テストなんて先生の癖がかなりきつい。おかしな問題形式でまともな勉強では対応できない問題が出題されたり(笑)
そんな問題別に対応できなくてもよいのですが、極端な話自作プリントはこういうものにも対応できる。
もちろん先生が頑張りすぎて手とり足取りになりすぎて自分の足で立てない子を作ってしまってはいけません。そのあたりも先ほど書いた”取捨選択”でしっかり考えるポイントなのですがね。
ま、塾によってはそれを評価してくれるどころか指定の教材以外使ってくれるな、勝手なことをやってくれるなと言われるでしょう。
そういう塾にはそれ相応のバイト意識には触れるライトな学生講師が集まればいい。そして塾講師ごっこを楽しんだらいいんですよ。
いや、そんな塾では楽しめない、もっと自分はやりたいんだと思うならさっさと変わればいい。バイトなんだからもっと楽しめる場所を追い求めたらいいですよ。
③インターフェースとしての自作プリント
あまりこういうのに期待するのはな…とも思うのですが、それでもやっぱり無視できません。これこそ自己満足系じゃないのかなんて思われるんですが、それでもちょこっとはこの3つめのポイントを意識しておいてほしいのです。
いや、やはり大切ですよ。特に学生講師の皆さんにとっては。
生徒とのインターフェース
生徒からすればあなたは学生だろうが何だろうが塾で教える人なんだから先生です。なかには学生の身分を黙らせているようなアコギな商売をする塾も未だたくさんありますが、あまりそこは関係なく生徒からすれば全員すごい先生です。
そんななか、ときどきですが始めたばかりの学生講師でこんな人がいます。
どうも、新人の〇〇です。今日が初めての授業ですごく緊張していますが精いっぱい頑張りますね!
いや、マジかと。もしあなたが病院で手術を担当する先生から同じことを言われたらでどう思いますか?自分ではこういうことでハードルを下げているんでしょうが、そんなことをすればどうなるかは考えておきましょう。
あなたへの信頼はぐっと下がるということです。信頼されていない生徒を指導することの難しさですよ。誰だって最初の授業はあったわけですよ。ハードル下げるような真似をするくらいなら、しっかりがっちり研修・授業準備して万全の状態で最初からカリスマ講師の顔をして授業に臨みましょう。
自作プリントの威力はすごい。それが実は全く市販教材と中身は同じでも生徒からすればとんでもない価値を持つ教材になる。
気持ちの面で。
これは上で書いた自作プリントの価値とはまた違うところ。もちろん市販教材のコピペでは教務力としての価値は皆無。しかしそこに「○○ちゃん専用特訓教材」と書いてあるだけで全く違う。もっと言うとそこには作成者の名前も入れましょう。
こうして生徒からの信頼を得たりモチベートできたなら、一時かもしれませんが今まで入っていかなかった言葉が入っていくかもしれません。もちろん中身が伴っておいた方が良いのは言うまでもありませんが(笑)
だからこそ、自作プリントを作ったなら最後にひと手間かけてしっかり表紙なんかをデザインしてオリジナル感を出した方が良いです。(キャラクターなんか使ったりするのもよいですね。)
こうやってオリジナルプリントは生徒とのインターフェースとして機能させる。それはもちろん生徒を引き付けるためのものでもあるのですが、講師側が生徒に寄り添うための道具でもあるのです。
自作プリントは先ほどから書いているように教材研究と同時に生徒の研究でもあって、自分から生徒に歩み寄っていく機会になるのではないでしょうか。
保護者さんとのインターフェース
学生さんで大丈夫かしら…
こんな風に思っていることが多いでしょうねが、しかしそれを軽視してはいけません。
サービスの対象は生徒さんでもお金を払っているのは保護者さんです。直接サービスすることなくお金を払う価値があるということを理解してもらわなければいけません。
全権限は保護者さんにあります。もしも塾に対して、そして生徒の指導に関して保護者さんの判断が間違っているとしてもそれをだれも止められません。
私は保護者の理解なくして特に小中の生徒指導は不可能だと思っていて、ある意味では保護者さんを先に動かさないといけないと思っています。保護者さんの信頼がない生徒の成績を上げるのはなかなか大変です。
大切なところで保護者さんを踏みとどまらせたり、心を動かしたりできる可能性があるのも塾なんですよね。それはもちろん本来学生講師の仕事ではないのかもしれないけれど、それでも学生講師はちゃんと保護者さんに信頼だけはしてもらっておいた方が良い。
でないと成績が上がらないだとか、子どにやる気が見られないといったと思った保護者さんがまず最初にとる行動は変化です。集団塾なら退塾、個別指導塾なら講師チェンジですね。
個別指導塾としては先生を変えるというのは最大の退会防止策(延命策)。お子さんに問題があると思うよりも、先生との相性が悪い、先生の力量が低いのが原因だと思わなければ保護者さんとしては後がない。ま、実際先生がダメなことも多々ありますがね。
保護者さんは普段の授業を見ていない。信頼しようにも見えないんだから仕方がない。だからどんなにお子さんが良い先生だと訴えても保護者さんに必要なのは結果。塾長に力量がなければここのズレが調整できないままスタートしてしまい都合が悪くなるとすべて講師の責任にされてしまいます。
そんな直接の授業と無関係な塾の運営者と保護者のズレが、せっかく築いてきた生徒と講師という関係をぶっ壊すわけです。塾講師をやっていてこれほどモチベーションを下げられる出来事はありません。
もしあなたが本当に生徒のことを考えて生徒のためを思って講師をしているのであればそれをいかに保護者に伝えるかが非常に重要です。
もちろん自作プリント出なくてもいいんです。そんな姑息なやり方をしなくてもと思うかもしれません。しかし手が限られる学生講師にとってこれは貴重な方法かもしれません。
今回のN先生は自作プリントで保護者さんの信頼を勝ち取ったわけです。だからこそ最後まで煩わしい声に惑わされることなく思い通りの指導ができたわけです。
別にインターフェースは自作プリントだけじゃない。でも塾講師として人と接するならちょっとだけこのインターフェースの部分を意識するだけで、同じ授業をしても生徒を引き付ける引力は変わりますよ。
今日はこのへんで。
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